近年の分散共有メモリ型並列計算機は,プロセッサの処理と独立に非同期でデータ 転送を行う機構を備え,プロセッサがデータ転送に忙殺されるのを防いでいる.ま た,プロセッサの高速化と64bitアーキテクチャ化により,演算性能は向上したが, コストパフォーマンスの関係からネットワークの転送性能は,プロセッサの演算性 能より低く設定される場合が多い.本論文では,このような分散共有メモリ型並列 計算機において,1重Doacross型ループの実行時間算出法を提案する.実行時間算 出に当たっては,ネットワークの転送性能として,プロセッサとネットワーク間の データ入出力時間間隔であるデータ転送ピッチを新たに導入すると共に,データ転 送余裕時間及びデータ転送発行遅延時間を定義し,ループ実行時間を求める.また, 求められたループ実行時間の利用例としてデータ転送ピッチを考慮した場合,デー タ転送順序の変更によって実行時間を小さくすることができることを示す.T3Dを対 象としたシミュレーションの結果,従来法に比較して,より実測値に近い実行時間 を算出できることを確認した. キーワード:並列処理,Doacross型ループ,並列化コンパイラ, 分散共有メモリ型並列計算機