都バス渋滞検知プロジェクト

プロジェクト概要

 交通渋滞による東京の経済損失は年間約4兆9千億円と言われています。また、渋滞車両による排気ガスは、環境汚染を引き起こし、脱炭素社会実現の妨げにもなっています。本プロジェクトでは、都営バスのリアルタイム停留所発車時刻データと機械学習(AI)を組み合わせた新たな渋滞検知サービスを開発し、WEBサイトで渋滞情報を提供します。渋滞検知の対象となる区間は、都営バス131系統が走行する1547停留所間で、既存の渋滞検知サービスではカバーしていない地元に密着したエリアまで検知を拡大しています。

現在の渋滞情報(別サイト)

 本プロジェクトで考案した手法を用いた渋滞検知WEBサービスを、こちらのサイトで公開しています。都営バス131系統沿線の渋滞情報をリアルタイムで確認することができます。(アクセス集中時は表示できない場合があります。しばらく待ってからアクセスをお願いします)

公開中の渋滞検知Webサービス画面の例
※上記の画面は現在の渋滞情報を表すものではありません。地図データは、国土地理院「地理院タイル」を使用しています。

プロジェクトの進行状況

1. 都営バス運行データ収集

 2022年6月1日より、公共交通オープンデータセンターが提供するAPIから、都営バスの発車時刻データの収集を開始しました。データは30秒おきに取得しており、2022年12月27日現在、約1億6千万行(36GB)分のデータを取得しています。

実施スケジュール表
回数実施日調査対象の系統と区間
第1回2022年
6月25日
池86(池袋駅東口~渋谷駅東口)
草64(池袋駅東口~東武浅草駅前)
都02(錦糸町駅前~大塚駅前)
都08(東武浅草駅前~錦糸町駅前)
第2回2022年
8月2日
王78(野方駅南口〜新宿駅西口)
都01(新橋駅前~渋谷駅前)
都05-1(有楽町駅前~晴海三丁目)
都06(渋谷駅前~新橋駅前)
業10(築地三丁目~新橋)
第3回2022年
8月14日
梅01(青梅駅前~玉堂美術館循環~青梅駅前)
梅70(青梅駅前~花小金井駅北口)
梅74甲(青梅駅前~並木循環~青梅駅前)
梅77甲(青梅駅前~河辺駅北口)
梅77乙(青梅駅前~駒木町循環~青梅駅前)
梅77丁(青梅駅前~河辺駅南口)

2. 都営バス運行特性調査

 都営バス一日乗車券を利用し、実際に都営バスに乗車することで、運行特性の調査を行いました。調査は3日間行い(詳細は左表参照)、この調査により下記の事項が判明しました。

  • 都営バスは、定刻より早く運行している場合、停留所で時間調整を行う。電子スターフ(運行指示書)が導入されている車両では、運転手が全停留所の定刻ダイヤを確認できるため、各停留所での時間調整が可能である。一方、電子スターフ非導入の車両では、一部の主要な停留所のみの定刻ダイヤが記載された紙スターフが導入されている。その場合は、紙スターフに書かれた一部の停留所でのみ時間調整が行われる。また、電子スターフ導入車両であっても、系統や運転手により、各停留所で時間調整が行われない場合もある。
  • 路線の車線数が少ないほど、渋滞によりバスのダイヤが大きく影響を受ける。特に、片側1車線の道路では、渋滞とバスの遅延に強い相関がある。
  • 多摩エリアの一部では、バスの運行本数や、沿線の交通量が極端に少ない路線が存在する。

3. 警視庁交通管制センター訪問

 日本道路交通情報センター(JARTIC)に渋滞情報を提供している、警視庁交通管制センター(東京都港区)を見学しました。既存の渋滞情報サービスの提供方法や問題点などを教えて頂き、渋滞検知WEBサービスの開発に役立つ様々な知見を得ることができました。

4. 既存渋滞システム精度調査

 渋滞発生箇所に実際に足を運び、既存の渋滞情報サービスの予測結果と見比べることで、既存渋滞情報サービスの精度を調査しました。また、この調査結果を参考に、AIの学習に必要な正解データ(渋滞か非渋滞かを表すデータ)の選定も行いました。

5. 渋滞検知AIの構築

 1.で収集した都営バス運行データと、4.で選定した正解データを用い、渋滞検知AIの構築を行いました。渋滞検知精度を向上させるため、2.で調査したバスの運行特性の考慮や、「転移学習」と呼ばれる新たな学習アルゴリズムの適用を行いました。

6. 渋滞検知Webサービス開発

 5.で構築したAIで予測した渋滞情報を地図上で表示する渋滞検知Webサービスを開発し、こちらのサイトで公開しました。本サービスは、公開後も適宜精度や利便性向上などのアップデートを行っていく予定です。

渋滞検知手法の外部公開

 本プロジェクトで開発した渋滞検知手法は、学会やオープンソースで外部に公開し、第三者への技術移転を目指します(カーナビやスマホアプリによるルート検索の精度向上に貢献します)。

学会発表

・青柳 宏紀(早稲田大学),岡田 一洸(早稲田大学),山名 早人(早稲田大学):
「都バスのリアルタイム運行データを用いた渋滞検知」
第14回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2022),A41-2,オンライン開催,2022年3月.
論文PDF
・畠中 希(お茶の水女子大学),青柳 宏紀,藤田 智也(早稲田大学),山名 早人,小口 正人(お茶の水女子大学):
「都営バスのオープンデータを用いた渋滞検知の精度向上についての検討 -運行特性を活用して-」
情報処理学会第85回全国大会,2ZA-08,電気通信大学(ハイブリッド開催),2023年3月.
論文概要
・畠中 希,青柳 宏紀,藤田 智也,山名 早人,小口 正人:
「都営バスのオープンデータによる渋滞検知の精度向上のための運行特性を考慮した手法の提案」
第15回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2023),1a-5-4,長良川国際会議場(ハイブリッド開催),2023年3月.
論文PDF
・藤田 智也,青柳 宏紀,畠中 希,小口 正人,山名 早人:
「転移学習による都営バスのリアルタイム運行データを用いた渋滞検知」
第15回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2023),5c-6-2,長良川国際会議場(ハイブリッド開催),2023年3月.
論文PDF
・畠中 希,青柳 宏紀,藤田 智也,山名 早人,小口 正人:
「時刻表情報を考慮をした都営バスのオープンデータによる渋滞検知手法の提案」
マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2023)シンポジウム,7B-4,富山国際会議場,2023年7月.
論文概要
・青柳 宏紀,藤田 智也,畠中 希,小口 正人,山名 早人:
「複数台のバスに関する特徴量を活用した都営バスのリアルタイム運行データを用いた渋滞検知」
第16回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2024),T5-B-4-01,アクリエひめじ(ハイブリッド開催),2024年3月.
論文PDF(要パスワード)
・畠中 希,青柳 宏紀,藤田 智也,山名 早人,小口 正人:
「都営バスのオープンデータおよびディープラーニングを用いた渋滞検知手法の提案と評価」
第16回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2024),T5-B-4-05,アクリエひめじ(ハイブリッド開催),2024年3月.
論文PDF(要パスワード)

渋滞検知プログラム(オープンソース)

 本渋滞検知Webサービスに用いたプログラムとデータをGitHubで公開しています。

東京都渋滞対策推進会議(東京都生活文化スポーツ局HP)

 令和5年度東京都渋滞対策推進会議(令和5年5月11日開催)で本プロジェクトの取り組みが紹介されました。(リンク

リンク


 都バス渋滞検知プロジェクトは、令和4年度「東京都と大学との共同事業」として東京都政策企画局から交付を受けて実施した「都営バスのリアルタイム運行データを用いた渋滞検知サービス」における成果の一部です。